日本銀行の黒田東彦総裁が29日、フィンテックサミット「FIN/SUM 2022」において「日本銀行として、現時点で中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する計画はない」と発言。ただし、今後の様々な環境変化に対応するためにも準備は重要である考えを示した。

FIN/SUMにはビデオレターの形で参加した黒田総裁。今年のテーマは「ビジネスと暮らしの二刀流」と銘打たれた。黒田総裁は気候変動やパンデミック、格差など人々の暮らしに関わる事象を引用し、金融サービスが人々のニーズを満たすよう進化し続ける義務を説き、金融サービスのデジタル化が果たす役割について話した。

かつての対面型の金融サービスから、インターネットやスマートフォンの普及によりオンラインでの銀行取引や証券取引に移行し、スマートフォンを活用した現金に代わる決済サービスなど、現在すでに根付いているデジタル化された金融サービスが珍しくないと述べ、コロナ禍がこうしたサービスの需要を高めたと強調した。

また、インターネット空間における地理的な成約がない決済を引き合いに、現在注目の高まるメタバースにも言及。ビジネスにも個人消費にも金融のデジタル化のニーズは高まりを見せており、世界的にも金融包摂が求められるなど、広範な金融サービスの提供の必要性は高まっている。

そんな中で、日本銀行も2020年10月に「中央銀行デジタル通貨に関する取り組み方針」を公表し、CBDCへの取り組みに着手。昨年4月からCBDCの基本的な機能を確認する概念実証フェーズ1を行い、実験作業が予定通り終了したところだ。

今月からはフェーズ2へ移行し、追加的な機能を確認する予定となっているが、今回未だにCBDC発行の計画は進んでいないことを明らかにした。

黒田総裁は金融サービスのデジタル化においてはデータの結合を促進する効果を有しているとも説明している。資金移動業者はマネーロンダリング対策などに多くのコストを支払いモニタリングを行っており、近年は機械学習を用いた不正取引の自動検知なども導入検討が進められているという。

また、金融データと非金融データの「新結合」が新たな価値を創出するとも述べ、新結合を進めていく上で消費者のプライバシーに対する配慮は極めて重要と語り、FIN/SUMにおいて多くの新結合が生まれることを期待していると結んだ。

ブロックチェーンテクノロジーにおける金融データと非金融データの結合といえばNFTが真っ先に挙げられるところだろう。