米ドルに価格が連動すると謳われていたステーブルコインTerraUSD(UST)が均衡を崩し現在1/5USDほどの価値に暴落している。

ステーブルコインとは法定通貨などと相互に交換ができることで価値の安定を図った暗号通貨のことで、代表的なステーブルコインには米ドルに裏打ちされたTether(USDT)がある。

ステーブルコインが安定するためには背景に充分な準備高が要求される。ステーブルコインの利用者が交換しようとしたときに充分な準備高がないとき、信頼は崩れ安定性は崩壊するだろう。

今回USTにはその懸念すべき事象が起きた。USTは米ドル連動ではあるが裏で支えられる通貨は米ドルではなく他の暗号通貨Lunaとなっている。1ドル分のステーブルコインは1ドルと交換するのが従来のステーブルコインだが、1ドル分のUSTは1ドル分のLunaと交換されることでUSTの価値を保っていた。

もしもUSTが0.9ドルで売られることがあれば、それを購入してLunaへと交換することで差額の0.1ドルを手にすることができるため、USTの値下がりはアービトラージによって買い支えられるというのが想定していた仕組みだった。

Lunaは時価総額4兆円超にものぼり上位10コインにも名を連ねる暗号通貨であり、USTの発行量は185億ドル相当で約2兆4000億円ほどということで、交換には充分なLunaがあったはずだが、なぜUSTは崩壊してしまったのか。

最初のきっかけは不明だが、5月10日未明にUSTの価格が0.7ドルを切った。前述の通りUSTが下がったことでアービトラージを行おうとする動きがあったはずだが、アービトラージャーはLunaを支えることはせず、すぐにLunaを売却し他の通貨へと交換をしてしまった。

その結果、USTに買い圧力がかかり価格が支えられる一方でLunaに大きな売り圧力が掛かり価格が下落、USTの発行総量にLunaの時価総額がジリジリと近づいていくに連れて更にLunaの売り圧力が加速し、ついにはUSTの発行総量をLunaの時価総額が支えきれなくなり、デジタル版の取り付け騒ぎとも呼べる出来事が起きてしまった。

Lunaの時価総額は1000億円を切るところまで落ち込み、到底USTのドル連動を支えられる規模の通貨ではなくなってしまった。

Luna/USTを運営するLuna Foundation Guardはこういった事態に備え、Lunaを買い支えるためのビットコインを基金として保有していたが、買い支えるには全く足りずすでに他の用途で使い切っていたのではないかという報道も見られる。買い支えの名目でビットコインを仕入れたものの、もとからそのつもりもなく、着服するつもりではなかったと指摘する声もあがった。

ドルとの連動を失ったUSTと、買い支えもできなくなったLunaがこの先価格を取り戻す見通しは暗く、流動性は失われていくものと見られている。

今回、USTが0.7ドルとなったきっかけは不明とされているが、一夜にして無価値にまで下がり続けたスパイラルを迎えた原因としては、やはりLunaの買い支え能力が不足していた点が挙げられるだろう。ステーブルコインの発行総量ギリギリの準備高であっても実際の米ドルであればこのようなスパイラル的な下落は避けられたはずである。

下支えする通貨もまた安定したものでなければ安定したコインを実現するのは難しいということだろう。今後はステーブルコインの裏付け資産の監査が厳しくなることが予想されるとアナリストは予測を立てている。