NECは23日、南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにて、安全かつ透明性の高いデジタルIDを提供すると発表した。

さらに、現地の貧困改善を目指すとして、今後インフラ分野にも影響を及ぼすともみられる。

今回のデジタルIDはNECが米州開発銀行、アルゼンチンのNGOと協力し合い実現に向けていくという。同プロジェクトは現地法人の「NECアルゼンチン」、現地の非営利団体「Civil Association DECODES(NGO Bitcoin Argentina)」、米州開発銀行グループのイノベーション研究所である「IDB Lab」との3社で行われる予定だ。

これにより、NECがアルゼンチンにて信頼関係を築ければ、今後他の国々からも依頼があることも考えられるため、NEC側としても活路を見出したいとも言えるだろう。

ブエノスアイレス市の状況を見ると、住民の16.2%が最低限の収入以下の貧困状態にあると言われている状況だ。貧困状態の理由として、貧困であるがゆえに不適正な対価を支払わざるを得ず、一定レベルの製品やサービスを享受できない状況である「貧困ペナルティ」のためとNECは指摘する。

この状況を改善するため、ブエノスアイレス市の全市民にブロックチェーン技術を活用したデジタルIDを提供するという今回のプロジェクトが発案された。

貧困層からのみデータを取り組むのではなく、富裕層や一般市民、さらには資産の多寡のみならず性別などありとあらゆる生活状態の人々からの活動を把握することになるため、大規模な情報収集・管理が今後のブロックチェーン関連のサービスに生かせるメリットも生まれる可能性は高い。

今回のプロジェクトは4年にわたって行われる予定となっており、まずブエノスアイレス市の最大のスラム街として知られる「Villa31(ビジャ31)」で導入され、その後2つの貧困地区にも拡大する見通しだ。

プロジェクトの実行責任は現地のNGOである「ビットコイン・アルゼンチン」が担い、「NECアルゼンチン」が技術パートナーとしてデジタルIDソリューションの開発を進めていくことになる。

アルゼンチンでは今月大統領選挙の予備選挙が行われ、中道右派のマクリ大統領がポピュリスト(大衆迎合主義)の野党候補に予想外の大差をつけられ2位となったことを受け、ペソは一時15%安の1ドル=53ペソとなり、過去最安値を更新した。

そんな中でビットコインは60万ペソを突破し、過去最高を更新した。ペソの避難通貨として、仮想通貨ビットコインの購入が進んだ可能性が高い。ビットコインなどの仮想通貨の理解、さらに大手仮想通貨取引所のバイナンスがアルゼンチン政府に近づいていることも話題に挙がったことから、ある程度はブロックチェーン技術のメリットについて理解していると見られるが、ボラティリティの高さなどから避難先としてはまだ不十分と見る人も少なくなく、ロサンジェルスを拠点とする仮想通貨ヘッジファンドArcaのチーフエグゼクティブであるRayne Steinberg氏は「別のボラティリティの高い資産に移動したことでさらにリスクを増加させる可能性もある」と述べ、懸念を示した。

アイデンティティーに関する諸問題や経済的脆弱性など様々な問題を抱えるアルゼンチン。今後南米にてNECがブロックチェーンカンパニーとして知られていくことも考えられ、今後の活躍に大きく期待する関係者も多いのは事実だが、国内情勢が不安な中で発表された今回のデジタルIDプロジェクトがどのように貢献していくのか。今後も注目していきたい。

参考:NEC