ベネズエラで大統領を務めるニコラス・マドゥーロ氏は、政府主体の仮想通貨ペトロを全ベネズエラ国民に配布することを公表した。

ペトロは自国が豊富に保有している原油に裏付けされたもので、1ペトロは原油の1バレルに相当し、去年の2月による政府発表のホワイトペーパーでは、1ペトロは約60ドルで発行上限は1億ペトロとしている。ただし原油といえど価格は常に安定しているわけでもなく、サブプライムローン問題が噴出した2008年には7月に147ドルまで高騰したのちに、年末には30ドル台前半まで落ち込む急落ぶりを見せた。

なお、ベネズエラの人口はIMFによる去年の統計では3,102万人となっている。今回の発表では何百万人もの国民に0.5ペトロずつを配り、準備は既に整っているとされているが、人口データとの大幅なズレが見られる。これは、ペトロアプリと言われているアプリをダウンロード及びアカウントを作成する必要があり、既に準備が整っている予めアカウント作成済みの国民が数百万人と見られる。

今年の6月には、若年層100万人ほどに配布するため9億2,400万ボリバルの予算を認めたニュースも飛び込んできた。ここまでして政府がペトロに期待を寄せているのは、アメリカから経済制裁を掛けてられている事情があるからだ。

アメリカはマドゥーロ氏の政権をとにかく強く敵対視しており、今年の8月にその政権と取引をしている国及び企業や、アメリカ内のマドゥーロ政権の資産に圧力を掛けると公言している。ちなみにベネズエラの対外債務は1300億ドルとなっており、非常に逼迫した経済事情がある。

しかしペトロには原油と交換するための窓口もなく、実際には取引は頻繁にされていないと言う指摘もあり、その実態は疑われている。事実、今年の11月になって拠出するペトロを予定であった50億バレル分から3000万バレルへと大幅に下方修正すると言った発表もあった。

こういったベネズエラの仮想通貨促進に対してアメリカは「ルール違反だ」と不快感を露わにしている。また、アメリカ国内の仮想通貨詐欺はベネズエラからが目立つと言った報告も上がっており、アメリカによる経済制裁とそれを避けようとするベネズエラの強い反発感はこれからも緊張感を増していくだろう。

また、アメリカで詐欺を行うベネズエラの集団を十分に取り締まらないうちにペトロを配布することで、次はリテラシーを備えていないベネズエラ国民が詐欺被害に合うことが予想され、反社会勢力への資金提供に繋がることも危惧される。

参考:日本経済新聞